お帰りは地下鉄で・・・
平松 政次投手(大洋ホエールズ)




 今では、どちらかというとマイナーな響きさえ感じる「シュート」という言葉。れっきとした変化球でありながら、「あれは、ボールがシュート回転していたから・・・」なんて解説者が言いうものですから、シュート自体、何やらとてつもなく悪い球のように聞こえてしまうものです。
 平松投手といえば、伝説の「カミソリ・シュート」が有名。子どもでもビックリするようなド派手なユニフォームを身にまとい、打者を次々と手玉にとって行きます。「カッコわりぃ〜ユニフォームのくせによぉ〜」と、いつもからかわれていた大洋ファンの友だちも、この平松とシピンの話の時だけは、胸を張って輪に参加しておりました。
 親に連れられて出掛けた後楽園球場の大洋戦。どういうわけか、いつも先発のマウンドには平松がいました。王が、張本が凡打の山を築き、ふと気がつくと、シピンが特大ホームランをかっ飛ばします。こんな状態ですから、7回も終わり、いよいよ敗色濃厚になってくるころになると、少年の気もすっかりそぞろになってしまいます。
 当時、後楽園球場の外野照明塔には、「お帰りは地下鉄で」という、営団地下鉄の大きなネオン看板がありました。闇夜に映える真っ赤な光は、その上のまばゆい水銀灯と相俟って、独特の雰囲気を醸し出しておりました。まるで、「もう勝てないんだから、さっさと帰んなよ」とでも言っているかのように・・・。
試合が勝っても負けても、少年の家に帰るには総武線に乗らねばなりませんでしたが、後楽園球場で試合を観るたび、負けの展開になってくると、平松の快投を思い出しては、この看板を眺めていたのです。



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