宇宙人よりも怖かったガイジン
T.マーチン外野手(中日ドラゴンズ)




 今と違って、私が子どもだったころは、街角で外国人に出会うことなどまずあり得ないことで、ましてや田舎に住む少年にとって、「ガイジン」という響きは、それこそ「ウチュウジン」に近いものがありました。何だかとてつもなくデカくて、とてつもなく鼻がとんがっていて、とてつもなく大食いで・・・。そんな中、プロ野球でテレビに映る「ガイジンセンシュ」は、子どもたちが接する、数少ない「ウチュウジン」でしたが、中でも大いに困らされたのが、マーチン選手だったのです。
 テレビに映るマーチンは、バットをまるで爪楊枝でも持つかのように軽々と握り、まるで何事もないかのような顔をして素振りをし、バッターボックスに入ります。そして、子ども心に、「なんか、やられそうだぞ・・・」と思った瞬間、アナウンサーの叫び声と一緒に、ボールはスタンドへ・・・。我らが堀内はうなだれ、王貞治が腕組みをして見守る中、その一塁ベースを、やはり何事もなかったかのような顔をしながら駆け抜けて行く姿は、今も脳裏に焼きついて離れません。巨人ファンからすれば、「宇宙人よりも怖かった」のです。
 記録的に特筆すべき選手・・・というわけではありませんでしたが、時代が長嶋から王へと代わり、「ホームランといえば王貞治」と言われていたころに、私にとって王を凌駕する「怖さ」を感じ取らせてくれた選手は、マーチン以外にいませんでした。「子どものころの思い出は拭い難い」と申しますが、少なくとも私にとって、マーチンとはマグワイアやソーサよりもおっかない、それこそ宇宙人よりも怖い、史上最強のベースボール・プレイヤーなのです。



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