ドカベン香川、ヤジられる・・・
福本  豊外野手(阪急ブレーブス)




 世界に轟くスチール・マスター、福本豊・・・。セでは巨人の柴田、そして松本が一世を風靡しましたが、やはり「走る」という点において、福本選手を超えることはできなかったといってよいでしょう。何といっても、彼が1塁ベース上に立った時点で、選手も観客も、そして放送スタッフも、球場にいるすべての人間が「走る」と信じて疑わなかったからです。急にそわそわするピッチャーに、サイン交換もそぞろになるキャッチャー・・・。我がホークスのキャッチャーが香川だったりしますと、スタンドには、何ともいえない「あきらめ」のムードが漂い始めるのです。「あ〜あ、これで2塁は盗られたなぁ・・・」
 そして2球目。福本の俊足は唸りをあげ、香川が重い腰を上げたか上げないかというころ、福本は2塁ベース上で、ユニフォームに付いた土を涼しい顔で払っている・・・。いつもそんな感じありました。
「こらぁ〜、ドカぁ〜、どこ見とんじゃ〜。しっかり働かんかぁ〜」 ライトスタンドからは、こんなヤジが次々と飛ばされ、渋い顔で再び腰を下ろす香川なのでありました。
 本来、香川をけなすのではなく、福本を褒めるべきプレーであることは、選手だけでなく、観客の誰もがわかっていたことでしょう。それでも自軍のキャッチャーにヤジを飛ばさなければならない・・・。福本の足には、そんな「鋭さ」「完璧さ」があったのです。



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