ザリガニかび病(ザリガニペスト)


この病気は・・・

 北米原産の病気とされますが、現時点では、ザリガニ飼育において最も恐ろしい病気です。文献によって、その程度には多少の違いこそありますが、たった数カ月で、ひと水系を丸ごと絶滅に追いやるだけの感染力と激症性を持つ、恐ろしい病気であることには違いありません。「ペスト(aphanomycosis)」と称されるゆえんは、ここにあります。
 北米産のザリガニには、これに対する免疫があり、同時に保菌者である可能性があるといわれています。ですから、すべての種・個体が無条件に感染するわけではありません。ただ、ヨーロッパのアスタシダエ科及び南半球のパラスタシダエ科、さらにはニホンザリガニを始めとしたアジア棲息のキャンバリダエ科の諸種には、当然ながら免疫がなく、それが「ひと水系丸ごと絶滅」という悲劇の原因になっています。被害の深刻なヨーロッパでは、相当種がこの病気で絶滅したといわれ、食用として古い伝統があるノーブル・クレイフィッシュも、絶滅の危機にさらされています。1981年には、とうとうイギリスにも発生し、国を挙げて現地棲息種を保護するための必死な保護活動が展開されています。イギリスのみならず、法令でザリガニの移動を禁止・制限している国も少なくありません。

原因と症状

 この病気は、Aphanomyces astaci という菌がザリガニに感染することで発病します。この菌は、体内に入ると、神経を伝わって瞬く間に全身に伝わり、あっという間に終わりを迎えます。感染初期には、バーンスポット病のような茶色い斑点が見られる・・・とする文献もありますが、我々アマチュアのレベルですと、むしろ「突然死」といった方がよいかも知れません。

伝染する?

 非常に強力な水中伝染力を持ち、個体同士の直接的な接触の有無に関係なく伝染します。人間でいう「空気感染」に近い形で、周囲の個体に次々と感染して行きます。

予防・対処方法

 日本でも、一部の水産試験場や公共機関などで、この病気に対する免疫を持たないマロンやレッドクロウなどの養殖実績があり、固有のニホンザリガニも、この免疫はありません。しかし、現在までのところ、これによると思われる深刻な被害は報告されておらず、その点で「日本にはまだ入っていない」という考え方もできなくはありませんし「さほど気にする必要はない」というスタンスをとるキーパーもかなりいるのが正直なところです。しかし、万が一にでも発生するようなことがあれば、大変な事態になることは想像に難くなく、ニホンザリガニに関する学術文献には、この危険性を説いているものが何本もあります。また、あくまでも「発病していない」だけで、保菌状態の有無まではわかりません。従って、万全な予防策をとっておくことは、決して無駄なものではないだろうと思います。
 その予防方法についてですが、ヨーロッパ系やオーストラリア系など、免疫のない種を飼育する場合、北米産種との混育(同居)を絶対にしない・・・ということしかありません。混育を避けるばかりでなく、換水用具や水槽・流木などの使い回しにも注意が必要です。基本的には「無免疫種」用と「免疫種」用とで、水槽や用具セットを完全に分けておくことが望ましい・・・ということになります。
 なお、一部のショップなどでは、免疫種(アメザリやタンカイ・ウチダなど)と無免疫種(オーストラリア系や日ザリなど)を同じ水槽にストックして販売しているケースがあります。万全を期すのであれば、こうした個体の購入は控えた方が賢明でしょう。
 もし感染・発病した場合は、もはやどうしようもありません。ヨーロッパでの比較的新しい文献をみると、「DNAポリメラーゼ連鎖反応( PCR )」という、新しい測定方法が採用されているようですが、アマチュアである我々には縁のない話です。今後のためにも、経過を詳しく記録した後、できれば死んだ個体を専門家の先生に見ていただくようにしたいものです。