甲殻の不硬化


この病気は・・・

 読んで字の如く、ザリガニにとっては自分の身を守る「命」である甲殻が硬くならない・・・というものです。直接的な死因にはなりにくい場合が多いのですが、個体によっては充分な歩行ができなくなることもありますし、他個体との喧嘩で簡単に死んでしまうこともありますので、非常に危険なものであると考えてよいでしょう。ちなみに、脱皮後の甲殻硬化については、種によっても多少の違いはありますが、3〜7日程度で完了するのが普通ですので、この時間を一つの目安として下さい。

原因と症状

 原因には、実に様々なものがありますが、現在の飼育個体(流通している個体)を見てみた場合、それ以外に連続近親交配による弱化個体であるというケースが充分に考えられます。弱化個体についての詳しい内容は、こちらを御覧いただくこととし、今回は、それ以外の可能性について触れておきます。
 まず、一番多く考えられるケースは、飼育水が「酸性・軟水」であるというものです。海産のエビ・カニ類は、脱皮の段階で必要なカルシウム分を、豊富に溶けている海水から摂取しますが、淡水棲のザリガニには、それができません。必然的に、ザリガニは、それを補うための「胃石」を形成しますが、それでも、水があまりにも軟らかいと、甲殻硬化には時間が掛かってしまう事例が何例も報告されております。養殖文献などを見ると、これを補うため、養殖池に石灰を投入するなどの手段が提示されていますが、水槽という小規模の環境では、そういった派手な方法もとれません。
 キーパーの中では、個体の体色をより綺麗に揚げるため、あえて「酸性・軟水」という環境にして飼育するというケースも多く見られ、事実、そこそこの成果は出ていますが、それでも、極端なセッティングは、危険な要素もあることを知っておくべきでしょう。
 次に考えられるのが「栄養バランスの偏り」です。前述の通り、ザリガニは海産のエビ・カニ類と異なり、 水中からの充分なカルシウム分の補給ができません。必然的に、餌による摂取が重要になるわけですが、それが満たされない環境が続いた場合、やはりこうした状況になりやすくなります。
 症状については、言うまでもなく「殻が固まらない」というもので、その度合いは個体よっても異なりますが、重症の場合、自分の姿勢すら保つことができなくなります。その死に方から、よく「脱皮不全」と間違われますが、死ぬのは脱皮自体が完了してからのことになりますので、一緒に扱うには無理があると考えてよいでしょう。

伝染する?

 これ自体に伝染性はありませんが、飼育環境が原因の場合は、同居個体が次々と発症する可能性があります。

予防・対処方法

 水質に問題がある場合は、的確な水質補正が必要です。飼育水を中性から弱アルカリ性レベルに保てる底砂、濾過材セッティングに代えてやることが、最も効果的でしょう。ただし、この水質に関する問題については、種によって適合しない場合もあります。特にアメリカ産キャンバリダエ科諸種の中には、(学術的な裏付けこそありませんが)弱アルカリ・軟水環境の方が順調に飼育できるものがあり、パラスタシダエ科諸種の中にも、こうした可能性を持つ種がいることは否定できません。また、「過ぎたるは及ばざるが如し」で、あまりにも急激な変化や、大幅な硬度・pHアップは、個体に負担が掛かる場合もありますので注意が必要です。
 餌に問題がある場合は、とにかく飼育の基本である「バランスよい給餌」を心掛けるべきで、これによって簡単に解消できます。気になる場合は、クリルや冷凍エビ、冷凍ダフニア(ミジンコ)などを、餌ローテーションの一つに加えてやるとよいでしょう。個体のよって反応に格差はありますが、鶏卵の殻を投入すると、成績がよいといわれています。
 なお、これらの状況がすべてクリアしているにも関わらず、一向に改善が見られない場合は、やはり連続近親交配による弱化個体である可能性が高くなります。この場合、残念ながら対処法まではわかっていません。